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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)245号 決定 1971年12月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人榊原幸一、同林光佑の上告趣意中、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、その余の点は、単なる法令違反の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

ところで、本件の事実関係は、化粧品、雑貨等の卸売りならびにこれに付帯する業務を目的とする資本金二〇〇万円の会社において、その目的とする業務の継続運営によってはとうてい回復の困難な営業上の損失を生じたことから、同会社の代表取締役である被告人が、別途に穀物等の商品取引を行なって会社に利を得させようと企て、前後二六回にわたり会社財産から合計一九九九万余円を委託証拠金として支払い、差損金に充当したというものであることがうかがわれる。これによれば、被告人は、投機取引のために会社財産を処分したものであって、その所為は、会社通念にてらし、定款所定の目的にそう業務またはその遂行上必要な付帯的業務の範囲内にあるとはとうてい認めがたく、かえって、その範囲外の客観的に別個独立の経済活動であると判断されるべきものである。被告人の本件各所為につき、それが「会社の営業の範囲外」にあるものとして、商法四八九条四号違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一)

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